口は災いの元である。
喋りすぎると要らない一言を言ってしまい、後悔した事は数え切れないほどある。
しかも、その一言が余計な一言なので困ったものである。
先日も選手から「おじさんは本当に一言が多いんだから気をつけなよ」と有難い忠告をいただいた。
決して、サービス精神が旺盛というわけではない。
到ってシンプルに話した方が伝わりやすいのは百も承知だが、伝えよう、伝えようとして熱くなりすぎてしまう性質なのだから仕方がない。
自分なりに注意はしているのだが、最後の余計な一言が聞く側からしたらカチンとくるらしい。
これからも自分の発した言葉で自己嫌悪になる事は目に見えている。
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今シーズンから試合を分析するスタッフが新たに加わり、新鮮な思いでスタートが切れている。
自分とはサッカーの見方や切り取り方が違うこともあり、毎日が新たな発見だ。
チームに取り入れるとかは別としてレアル・ソシエダが我々のブームになっている。
ソシエダは資金が豊富ではないが現在、リーガ5位につけている強豪だ。
ご存知の方もいらっしゃるだろうが、レアル・ソシエダは低い位置から丁寧にゲームを組み立てる戦術を取り入れている。
幅と深さを保ちながら組織的にゴール前へボールを運んで行く。
サッカーに於けるプレイの原理原則、ゲームの仕組みが凝縮しているような戦い方だ。
我々、指導者はこれらを選手に対してどう伝えるのかが腕の見せ所なのだ。
自分たちがコントロールできる幅と深さは最大68m X 52.5mなのだ。
ならば、52.5mの深さをどうやって広げるのか。
ボールを運ぶとはどういう事なのか。
ライン間とライン上の違いは何なのか。
チームとして共有しておかなければ選手それぞれが違った解釈をしている可能性だってあるのだ。
当たり前だと思っている事は当たり前ではないのかも知れない。
言葉で言うのは簡単で、映像を見せるのも簡単だが、人に伝えるという事は本当に難しい。
自分のような年代だと、話す手法として『落として上げる』話し方をしてしまう。
少しだけ貶しておいて、後でそれ以上に持ち上げる話し方だ。
今のご時世、この手法はかなり危険なのは先日の東京五輪組織委員会の通りだ。
たとえ自分は思っていなくとも、相手の捉え方が違えば大問題である。
ましてやテレビだと端折られる可能性があるので注意しなければならない。
10年ほど前の話だ。
まだJリーグがスカパーで放映していた頃、カマタマーレ讃岐が四国リーグかJFLだったので徳島ヴォルティスの試合を解説していた事がある。
その頃から今と同じように思ったことをズケズケと言っていた。
担当放送局の徳島県・四国放送さんからも「北野さんらしくて良いですね。視聴者からも好評です。」と言われていた。
当時の徳島ヴォルティスにはセレッソ大阪から期限付き移籍で柿谷曜一朗が所属していた。
セレッソ大阪の時から、ちょっと尖った感がある柿谷曜一朗は好きな選手の一人だった。
その頃、何の代表かは忘れたが選出から漏れた後すぐの試合の解説だった。
時折、良いプレイも見せるのだが、緩慢なプレイもあり、物足りなさを感じた自分は「こういう淡白なプレイだから呼ばれなかったのかも知れませんね。」と言ってしまったのだ。
その後は気にかける事もなく、良いプレイをした時には柿谷選手を詳しくマニアックな解説をしていた。
前半が終わりに近づく頃、放送ブースの後ろがいつもと違い、慌ただしく人が出入りしていた。
ハーフタイムに入りCMの時間になると、その訳がわかった。
東京にあるスカパーにクレームの電話やファックス、メールが大量に届いたとディレクターさんに連絡が入っていたのだ。
若手の人気選手であった柿谷選手は全国にファンが大勢いる。
自分の一言が全国の柿谷ファンの怒りに火をつけてしまったのだ。
後半に向け、ロッカールームでは両チームが熱いミーティングが行われている時、ここ放送ブースではスカパーさんと四国放送ディレクターさんとの熱い議論が行われていたのだ。
その電話を静かに見ている自分は、ただただ喫煙タイムを削られたことを悔やんでいた。
そして後半の始まる前にディレクターさんから「解決しました。北野さんは北野さんらしく、思った事を話してください。大丈夫です。」と肩をポンと叩かれた。
それはまるで前半、ミスをして失点してしまった選手を後半、自信を持たせてピッチに送り出す監督と選手のようだった。
だが、後半は少しトーンダウンして、当たり障りのないように言葉を選びながらの解説になってしまったのは今も変わらないメンタルの弱さだ。
放送終了後のミーティングでは後半、自分を出せなかった事を注意はされなかったが「次は期待してますよ。」と励まされた。
あたたかい言葉に涙を浮かべ、高松自動車道をかっ飛ばしながら『自分は自分らしく生きよう』と心に誓いながら帰路についたのだった。
『自分は自分らしく生きる』事は大切だが、時代に沿わないとただの自分勝手だ。
話し方の手法も変わらなければならない。
褒めるだけで人が成長する事はないし、叱るだけだと相手は離れる。
新卒の選手が加入すれば選手との歳の差は年々、離れるばかりだ。
ましてや自分は今、指導しているのは性別の違う選手なのだからサッカーの世界だけを見ていてはコミニケーションも取れない。
頭を柔らかくして、臨機応変に対応できるようにしないと今のご時世は生き残れないと強く思っている今日この頃だ。
試合後のインタビューの話し方を教えてくれたのは京都サンガアカデミー時代の同僚高本 詞史(現 徳島強化)だ。
勝った試合は相手を持ち上げることから話し始めてから自分のチームの事を話すと良いらしい。
みやびじょんカップ(現サンガカップ)というジュニアの大会で優勝した後に初めてのインタビューがあった。
教わった通りに話したつもりだったのだが、余りにも持ち上げすぎて嫌味に聞こえたらしく相手の監督さんは話もしてくれなくなった。
大差がついた試合は無理矢理に相手を持ち上げてはいけない事を学んだ瞬間だ。
ちなみにではあるが、Jリーグ中継がDAZNに変わったにも関わらず、未だに解説のお呼びがかからないのはスカパーの一件があったからかどうかは分からない。
そして「平畠会議」が終わった今、皆さんの前に顔を出す事が無くなってしまった事を寂しいと思っているのは自分だけでは無いはずだ。
と思う。
有料部分は2014年アウエイ・東京ヴェルディ戦のミーティングの様子を撮影した映像です。
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なお、画質を落としている事をご了承ください。
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