この仕事をしていたら仕方のない事なのだが慣れ親しんだ場所を離れるのは大変だ。
新しい環境に慣れるまでは相当のストレスがある。
『居心地の良い場所に成長がない』と言われるが、そんな事はない。
自分の場合は『居心地の良い場所だから成長できる』と思っているので、新たに仕事をするスタッフには よしもと新喜劇 を強制的に視聴させるのはその一つだ。
今年も日本プロサッカー選手会(JPFA)が主催するJリーグ合同トライアウトが行われた。
この2年は顔を出す必要がないので行っていないが毎年のように行っていた。
コロナ禍の影響でリーグ戦終了が遅れ、来期は2月スタートという事で移籍関係はカオス状態なのは想像できる。
ましてや強化部長やスタッフが変わったクラブも多く、例年以上のスピードが必要なのだろう。
トライアウトにはJクラブはもちろん、JFLや地域リーグのクラブの人たちも集まる。
事前にトライアウトに参加する選手たちの名簿が送られる。
だが、ここ何年前からは「えっ、この選手が」という選手が参加するようになった。
ある程度名前のある選手は契約満了になっても直ぐに他のチームから打診があるものだ。
それほど厳しい現実の世界がここにはある。
自分がトライアウトに出向く理由は二つあった。
一つは当然、新たな戦力の獲得である。
送られてくる参加者名簿があるのだが、事前に満了したクラブや仲介人からの情報がある。
それを元に映像であったり実際に指導していた監督やコーチからの情報を手に入れるのだ。
このネットワークが非常に重要である。
評価は人によって千差万別、十人十色だ。
自分のサッカーに合ってるか、チームのスタイルに合っているのかを自分の事をよく知っている信頼のおける人物に聞くのだ。
幸い、自分はそのような友人が多いので助けてもらい、実際に選手のプレーを確認して獲得に至るのだ。
普通は後日、仲介人であったり相手クラブとの交渉となる流れだ。
だが、直ぐに交渉を打診することもあり、トライアウト会場には交渉する部屋も用意されている。
自分の場合、当日に交渉の打診をしたのは一度しかない。
瑞穂競技場の応接室に通され、少し古いが高級そうなソファーに座り選手を待った。
満了になったチームのコーチから紹介された、その選手は怪我などもあり試合に絡めなかったがポテンシャルは高いそうだ。
そのコーチいわく、自分ならば再生可能らしい。
ビブスの番号を確認してウォーミングアップを見る。
その選手は華奢でヒョロヒョロだったので見た目は良く無かった。
だが、11対11のゲームを見て、直ぐに獲得しなくてはならないと思った。
スタンドから見ていると周りにいる他のクラブからも、その選手の名前を口にするのが聞こえた。
一度帰って検討しようと思ったが一番先に声を掛けるのが常套手段である。
直ぐに段取りをしてもらい獲得の意思を一番に伝えることに成功した。
数チームからの打診はあったようだが、無事に獲得することが出来た。
理由の二つ目は自チームを満了になった選手の他クラブへの売り込みだ。
なんとか現役選手を続けられるように獲得してくれそうなクラブにお願いするのも仕事だ。
実際の現場で指導していたのでストロングポイントもウィークポイントだって分かるのだから具体的な特徴を伝えることが出来る。
讃岐のような小さなクラブは獲る選手だけではなく、出す選手への誠意も見せなければならないと強化部の 中島健太 と考えを共有していた。
今だから言えるのだが当時は予算も限られ、熱意とネットワークだけが頼りだった。
そんな経緯で獲得した選手ばかりだったので、満了になった選手に誠意を尽くすのは当然だ。
金も無ければ環境も悪い。
想いと夢だけが頼りだ。
想いとは「是非とも力を貸して欲しい」という事なのだが夢とは何か。
夢とは選手の将来的なもので「活躍してステップアップして欲しい」という事だ。
ここで活躍すれば、J1クラブやJ1クラブを狙っているJ2クラブに行けるという事だ。
守備組織が機能すると必ずディフェンダーが移籍してしまい、カウンターが機能すればスピードのある選手は移籍してしまう。
監督としては困るのだが嬉しいことでもある。
引っ張られる選手は申し訳なさそうに相談してくるが、少しだけ嫌味を言って快く送り出した。
若い選手を育てるのではなく、活躍させて上のカテゴリーへ送り出すことが育成クラブなのだ。
育成という言葉はトップチームとアンダーカテゴリーでは意味合いが違う。
瑞穂競技場の応接室にヒョロヒョロ青年が入ってきた。
物静かな口数の少ない大人しい青年だった。
「想いと夢」を伝えると嬉しそうに何度もお辞儀をして応接室を後にした。
怪我が回復して才能の片鱗を見せ始めたところで今度は自分の方が契約満了になってしまった。
一年で見違えるように口数が増えた青年からお礼の電話をもらった。
昨シーズンに大怪我をしてしまい活躍が出来なかったが、先日、復帰してゴールを決めた。
来シーズンこそは大活躍をして夢を叶えて欲しいものだ。
トライアウトの思いで話である。
因みにではあるが、新しい場所は面倒臭いことも多々ある。
県外ナンバーの外車に乗っていた自分は引っ越して来た初日にパトカー3台に囲まれ、職務質問をされてしまった。
少し抵抗する仕草をすると5人ほどの警察官にトランクを開けるように命じられた。
トランクを開けると綺麗に並べられたスパイクが7足あったので「あなた何者ですか」と言われた事も思いで話である。
写真提供はtaichi君です。いつも、ありがとうございます。
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