何年経っても先輩は先輩で、後輩は後輩と教えられて来た年代だ。
帝京サッカー部という究極の縦社会組織に属していた自分だが、今や完全にオープンだ。
選手とはフレンドリーな関係を築けるように、よく話す方だと思う。
だが、フレンドリーを通り越し、ツレのようにタメ口で話し、監督の事を「きたまこ」と呼ぶ選手がいた。
『きたまこ、此処はどうしたらええねん!』
『きたまこ、キジさんに帰れって言うてや!』
それを聞いて、相手選手が笑いを堪えてるのが分かるほどベンチに向かって叫ぶのだ。
コロナの影響で、観客数に制限がある事からピッチ上の選手の声がよく聞こえる。
今なら、赤っ恥をかくところである。
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久しぶりにJリーグをスタジアムで観戦した。声を出さずに手拍子だけの応援は少し寂しい。
早くサポーターの歌声が帰って来て欲しいものだ。
各チームのサポーターが歌う「チャント」はオリジナリティーがあり面白い。
スカウティングで試合を何度も見るので、どこのチームの「チャント」も覚えてしまうのだ。
スカウティング映像はピッチ全体が見れる映像で実況、解説がないので応援の声はよく聞こえる。
分析の時はイヤホンをしてパソコンで映像を見るので、自然と「チャント」を口遊んでしまっている為、他のスタッフに『○○○の試合』を見ている事はバレバレだ。
実際の試合でも、展開に余裕のあるアウェイゲームの時などは、ベンチでアウェイチームのお気に入り「チャント」を歌っていたものだ。
逆に、緊迫したゲーム展開の時は、一切耳に入らない事もある。
そして終盤、点差をつけられ敗戦濃厚の時などは虚しく耳に入って来る。
ただ、スカウティングしながら、眠くなる「チャント」もあるという事も正直者の自分は書いておく。
海外のサッカーを見るときは実況、解説付きなので感覚は全然違う。
テレビを見ながら思うのは選手の名前、特徴からをスラスラ言えて流石にプロだなぁと感心する。
1試合を担当するのに、相当な時間と労力を要するのは画面を通してもよく分かる。
伝えるという事では同業者であるが、根本的に違いがある。
解説者は取材を通して、自分の経験や学んだ事を視聴者に伝えなくてはならない。
解説者は現象を伝える仕事だが、指導者は原因を伝えるのが仕事である。
指導者は起きた現象の原因を選手に伝えなくてはならない。
誤解される言い方になるが、解説者は「言いっぱなし」でも良いが、指導者は選手に納得させて、改善して貰わなくてはならない。
そして、トレーニングで落とし込ませるメニューを作成して、週の何日目に行うかまでを考えなければならないのだ。
伝え方はそれぞれだが、チームの状況によってタイミングを考えなければならない。
チームの調子であったり、前節の勝ち負け、選手のメンタル、疲労等々、有りとあらゆる事を感じて伝えなければならないのだ。
伝え方は、監督としてのマネージメント能力とセンスなのだと思う。
分析の仕方であったり、トレーニングの構築は人から学べるが、チームマネージメントは現場で経験して、感じる能力を身に付け、センスを磨かなくてはならない。
指導者ライセンスの講習会では学べないものだと思う。
選手、スタッフとの信頼関係を築くためのコミュニケーション能力は大切で「腹を割って話す」ようにならなければ薄っぺらいチームになってしまう。
チームというのは個性の強い個人事業主の集まりであり、結束する事と崩壊する事は表裏一体なのだ。
どんなに「まとまっていても」一瞬でバラバラになり、バラバラだったのが一瞬で「まとまって」しまう生き物だ。
時には現場だけでなく、フロントが原因になる事もあるくらいデリケートな生き物だ。
完全にバラバラになる前に修正するのが監督力なのだと思うが、かなり難しい。常に観察、観察である。
自分はウォーミングアップのストレッチの時に、一人一人、全員と言葉を交わすようにしていた。
あえてサッカーの話では無く、自分の「くだらない話」なので合わす選手も大変だが、それはそれである。
選手個人に対して「見ている」事を毎日、認識させなくてはならない。
練習前や練習後の様子はチームを観察には打ってづけの時だ。
個人であったり、グループが何を話しているかを注意深く見なければならない。
コロナが落ち着いて練習見学が出来るようになれば、監督やコーチが選手とどんなコミュニケーションを取っているか見て欲しい。
そのチームの監督・コーチと選手の距離を観れるかもしれない。
どんな社会でも、言いたい事を言い合える関係性は同じだ。その関係性は自然とできるものでは無い。
日々の積み重ねと、共通した目的で成り立つものだと思う。
チームの調子が悪い時または連敗中の時に見える『都市伝説』がある。
一人の選手がタッチラインの上にボールを置いてボールの上に座る。その横に同じようにボールに座る選手。
連鎖するように人が増え、数人がボールの上に座りながら話している様子が電線に留まっているスズメのように見える事から『電線のスズメ』と呼ばれる。
この光景の時は、チームに不満を抱える選手が多いので早く対処した方が良い。
『信じるか信じないかはアナタ次第です』
チームの主軸となる選手との関係性は重要だ。チームのことはもちろんだが、家族のことであったりプライベートの事まで話をしていた。
中西 哲生 氏著の『ベンゲルノート』に書いてあったと思うが「チームの中で一番力のある選手と監督がよい関係を持っているチームはとても強くなる」といったピクシーの言葉は間違いない。
この事が本当の意味で分かりだしたのは、監督を始めて数年後だったと思う。
人と人の関係をコントロールする事は難しい。自分をさらけ出してこそ、他人に分かって貰えるものだと思い生きている。
それが「空回り」している事が多いのは百も承知だ。
しかし女子チームには全く持って、自分が経験して来た事を実践できない。
まず、得意のくだらない話が通用しない。笑わす事が出来ない。
プライベートの領域に入る事など100%無く、今日も試行錯誤して顔色を伺っている。
因みにではあるが、冒頭のツレのような 山本 翔平 は、彼が中学生だった頃からの長い付き合いなので仕方がないと言えば仕方がない。
だが、まだ一年も一緒に働いていない監督に対して、ツレのように喋る女子選手が若干1名いる。
さすがに「きたまこ」とは呼ばないが、何処かの兄弟と同じように「おじさん」と呼ばれている。
彼女は私が究極の縦社会組織に属していた事を知る余地もないが、「彼女のお父さん」とはこの組織に属していた時に試合をした事があるそうだ 笑