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大和撫子七変化

毎年、メディカルチェックを受けると何かしら見つかる。ストレスのある仕事だから仕方がない。
3年前に体調が良くない日が続いたので精密検査をしたところ、癌が見つかった。たいした癌じゃなかったが声が出なくなる可能性もあった。

声が出なくなればサッカーコーチの仕事は出来なくなる。そう考えると流石に気持ちは落ちてしまったが幸い、手術後も変わりなく美声を出す事ができた。

半年間の静養をしただけで幸運にも現場に復帰する事ができ、今もグランドに立っている。自分がやりたくとも、お呼びが掛からなくては現場に立てないのだから幸せな事だ。

そして今年、お呼びが掛かって選んだのは、誰も思いもしなかったであろう女子チームだ。世間一般から見える自分への印象は、態度も口も悪い監督なのに女子チームから話を貰えるなど想像すらしていなかった 笑

代理人を通じて返事を聞いたノジマステラの 深井社長も「まさか受けてくれるとは」と驚いたそうで、受け入れてくれるコーチ陣も戦々恐々と迎えてくれたと今になって話してくれる 笑笑

そもそも女子サッカーなど見た事がない。年間、100試合以上を見るのだが女子サッカーを見るのは『なでしこジャパン』を夕飯を食べながら見るくらいなので「なでしこリーグ」が何チームある事さえ知らなかった。

ノジマステラは京都時代のチームメイトであり、アカデミーコーチの先輩である 菅野 将晃さんが神奈川県で立ち上げた女子チームとは知っていたがチーム名は知らなかった。そして『ノジマ』が家電販売店というのも初めて知った。

知らない尽くしだったので年末から「なでしこリーグ」の映像を見て思った事は、男子に比べスピードもパワーも無く、迫力に欠けたサッカーだった。以前、澤穂希さんのプレーを直近に見た事があり女子選手はテクニックは有るのだと思っていたが、そうでもなかった。

女子サッカーを指導する事になったので高校の先輩であり、国民栄誉賞の 佐々木則夫さんに電話を入れた。そこで返ってきた事は『サッカーを教えてやれ』だった。

実際に練習を始めた時から 佐々木則夫さんの言った事が分かった。相手のことなど関係ない、自分のプレーの事しか一生懸命ではない。サッカーは相手あっての競技なのだ。

『自分たちが、こうするから相手がこうなる』『相手が、こうするから自分たちは、こう変える』といった相手と駆け引きするサッカーの楽しみ方を分かっていない。
自分がサッカーをするのは好きだが、他人がやってるサッカーには興味が無いと思わせるほどの感覚だった。

ボールの置き所や立ち位置で相手を変化させる事から練習を始めた。サッカーを別の角度から楽しませるためだ。コロナの自粛期間で開幕が遅れたのは幸いで、少しづつではあるが彼女たちの意識も変わって来ている。

自分にとって、初めての女子サッカー界は閉鎖的に映る。現場だけではなく、それは様々なところで必ず『女子だから』という枕詞が付く。

テクニカルにしてもフィジカルにしても『女子だから』だ。ならば 吉田沙織さんはどうか。東洋の魔女はどうか。男と変わらないマックスのパワーや能力を出せている。『女子だから』ではなく『女子だからこそ』出来る能力を引き出さなくてはならない。

病気を患って、後どれくらい現場に出れるかを考えた。だからこそ、新しい事に挑戦したかった。男子も女子も関係なく、全力でやる事が少しでもサッカー界に貢献できる事だと思っている。

ノジマステラの環境は抜群だ。人工芝だが専有のグランドがあり、クラブハウスにはトップチームのスタッフルームもある。ただ残念なのは男性用のトイレが二つだけ、そして男性用シャワーが無い。ここが肩身の狭い場所であるのは『男子だから』だ。


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