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讃岐うどんの「空気」とカマタマーレ讃岐

幹線道路が急に渋滞し、前の車の後をトロトロと進んでいく。

渋滞の元が丸亀製麺という事はよくあることで、昼前から駐車場待ちの車が停まっている。

舌打ちをする歳でもないので渋滞が解消した広い道を制限速度でかっ飛ばす。

香川県高松市出身の自分は、まぁまぁうどんにはうるさい奴だと自負している。

中学を卒業してすぐに東京の高校に進学した。

高校三年間は一度も帰郷できず、車の免許を取って、買ったばかりのフェアレディーZで実家に帰ったのが19歳の時だったと思う。

一週間くらい居たと思うが、多分、うどんを二、三回は食べたと思う。

今なら、香川に帰ったらうどん食いてぇと思うが、当時は思わなかったと思うので全く覚えていない。

 幼い頃、うどんは自分にとって空気のような存在だった。

ただそこにある日常だった。

100円玉を握りしめて立ち寄るうどん屋。

そこには余計な選択肢はなく、ただ「うどん」があるだけだったのだ。

東京に在住していた叔父が、たまに帰ってくると、親父と一緒に高松駅や高松空港に迎えに行く。

叔父を車に乗せると家には帰らず、ジャンボうどんに直行する。

釜揚げうどんを一口食べると至福の笑顔になる。

「はぁ、やっぱり美味いわ」

子供だった自分は、とても不思議だった。

焼肉やステーキならいざ知れず、うどんでそんなに喜ぶのだろうか。

変わったオッサンだと真剣に思っていたのだ。

当時、うどん屋のメニューはとてもシンプルだった。

基本は「かけうどん」でたまに「釜揚げうどん」や「ざるうどん」がある店があった。

トッピングは天ぷら数種類とおにぎり、おでん。

自分にとってうどん屋のメインは、おでんのスジ肉だった。

おでんはうどん屋で食べるものだと思っていた自分が、実は鍋で食べるものだと知るのはそれから数年後になる。

セルフサービスが基本で、一角に小さな食べるスペースがあるような店が主流だった。

お盆を持って、うどんを注文し、自分で湯掻いて、出汁を入れて天ぷらを取り、お金を払い、水をくんで、食べ終わったら自分で片付ける。

この一連の流れは、香川県民なら誰もが自然に身につけている作法で、うどん屋は、ただ地域の人々の胃袋を満たす場所だった。

東京から柏を経て京都に移り住むと距離的にも近いことから香川に帰る事は増えたが、まだまだ今のような讃岐うどんブームではなかった。

瀬戸大橋開通で、うどんの大型店舗は増えたが小麦粉と水と塩だけで作られた麺のコシと、いりこや昆布から取った出汁。

そして、おでん。

それ以上でも以下でもない。シンプルなうどん屋だった。

親父や弟は「どこそこのうどんが美味い」とか言うのだが、香川県に住んでないので知るわけがない。

しかも好んで、うどんを食べようとなんて思っていないのだ。

うどんなんて、どこも同じだくらいしか思っていなかった自分は近所のうどん屋のヨコクラかナミキにしか行かない。

ナミキといえば中学校の近所にあるうどん屋で、優等生であった自分はご学友とともに3時間目が終わると学校を出て、ランチをしていたものだ。

かけうどん一玉だけ食べて、あとは出汁とネギだけを勝手に何杯もお代わりして、お店の人に怒られて、向かいの本屋に駆け込んでサッカーの練習時間まで読書にふけていたものだ。

その後、熊本に住む事になり、今度は距離もあり、なかなか香川に帰れなくなった。

この頃に映画「UDON」でいよいよ讃岐うどんブームが到来する。

テレビや雑誌なのでブームは知っているが指導者として初めてのプロの世界にいた自分にとってはどうでも良かった。

ただ、熊本のイオンに丸亀製麺ができたのだ。

懐かしのセルフ形式で食べるうどんだったが違和感を感じた。

「あれ、こんな味やったか」と思った。

誰と行ったか忘れたが、その人はセルフ形式を絶賛し、美味しいと言っていたと思う。

ただ、セルフ形式を褒められた事で、ちょっと自慢だった事だけは覚えている。

そんな熊本時代、驚くニュースを目にした。

なんと香川県にJリーグを目指すクラブが誕生した。

その名前もカマタマーレ讃岐。

釜玉うどんと海(マーレ)を掛け合わしたネーミング。

コケた…。

なんというセンスなのかと正直、思った。

釜玉うどんは知っていたが、実物を見た事がない。そもそも食べた事がないのだ。

そんなダサい名前のプロサッカークラブの監督になるとは、これっぽっちも思っていなかった。

だが、それから数年後なってしまったのだ。

今や、讃岐うどんは全国ブランドとなり、海外まで知られる存在になっている。

香川県には観光客が大挙して押し寄せるようになり、「うどんツアー」という言葉が生まれ、一日で何軒もはしごする「うどん巡礼」がブームになった。

週末ともなれば、有名店には県外ナンバーの車が列をなし、開店前から行列ができる。

そして、あろうことか「うどん県」になってしまったのだ。

うどん県のカマタマーレ讃岐。

もう何が何やら分からなくなった。

30年ぶりに香川県に住むようになったが、うどん屋は様変わりをしていた、

その最たるものはメニューの多さだった。

ぶっかけ、釜玉、肉などなど知らないメニューばかりなのだ。

天ぷらだって、どんだけ種類があるのか。

おでんは相変わらず安定の種類。

そんな変わりようにしばらくは戸惑った。

とりあえず「ぶっかけ」を食べて美味かったので保守的な性格の自分は半年は「ぶっかけ」しか食べなかった。

っというか、注文する勇気がなかったのだ。

カマタマーレの監督なのに釜玉うどんを食べたのは1年後くらいだったと記憶している。

とうぜん「山越うどん」で。

順調にチームも強化でき、年々成績は上がっていくカマタマーレだったが資金難は続いていた。

ユニフォームの胸のスポンサーが見つからず「さぬきうどん」だったのを皆さんは覚えているだろうか。

少し恥ずかしかったがアウェイに行くと、なかなか好評だった。

通り過ぎたブームだったが我々のユニフォームで県外の人たちに讃岐うどんを食べたくなったはずだ。

そういう意味では濃厚な地域密着型クラブだったのだ。

そこへ振って沸いたように起こったのが「丸亀製麺事変」だった。

スポンサーに丸亀製麺が付くとか、付かないとか。

現場サイドとしては全国チェーンの大口スポンサーになるだろうと喜んだ。

だが、そこは地域密着型クラブ。地元のさぬきうどん協会が許さなかった。

何度かクラブの役員、行政の方々と話をしたがそりゃそうだなと納得したのを覚えている。

でも、結果的にはJリーグに上がる時に行政の支援を得られたのも、この時の決断があったからだと思っている。

これが自分が地元、香川県の出身監督じゃなかったら不平不満を言っていたと思う。

現場はやはり予算が上がるのが一番良いのだ。

だが、そこはうどんで育った地元愛。

うどんあっての香川県なのだ。

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カマタマーレの監督をやっていると

「どこのうどん屋が好きか」

との質問がテレビや雑誌で聞かれることが多い。

自分にだって、あるのは当然だが言えるわけなかった。

「ちくわ天だけは鉄板で食べますね」と濁していた。

ホームゲームは高松市内のホテルに集合して、軽食をとってミーティングしてから丸亀に移動するのだが、軽食はもちろん、うどんがある。

選手たちも慣れた手つきで、うどんをシャッと湯掻いて温める。

新加入の選手も見よう見まねで湯掻いているのは可愛い。

もちろん外国籍選手も大好きだ。

アウェイのホテルの軽食もうどんは出るのだが取る選手は少ない。

当然、自分も食べない。

そうなると、うどんウンチクが始まる。

味のこともさることながら、どこそこのうどん屋は最近、並びがキツいから行かなくなったとか、もう立派なうどん人なのだ。

隣県のJリーグ関係者も香川県にうどんを食べにきていた。

選手はもちろんだが監督もよく来ていた。

「この前、◯◯うどんに行ってきた」

とか言ってくるので

「ちゃうのよ、そこ行くんなら◯◯行かな」

と通打っていたのは自分だけじゃないはずだ。

柏レイソルで活躍中のスペイン人監督とのうどん話は笑う。

なかなか香川県まで来れない方には、通販で本場香川から取り寄せることをお勧めする。

通販で購入できる讃岐うどんには、主に三つのタイプがある。

「生麺タイプ」は、最も本場の味に近い選択肢。

冷蔵で届き、賞味期限は短めだが、茹でたての食感とコシは格別。

有名製麺所の生麺セットなら、店で食べるのとほぼ同じ品質を味わえると思う。

「半生麺タイプ」は、保存性と品質のバランスが良いタイプ。

常温で数ヶ月保存でき、茹で時間も短めで、初めて讃岐うどんを取り寄せる方には、このタイプがお勧め。

「冷凍うどん」は、手軽さが魅力。

最近の冷凍技術の進化で、驚くほど美味しい商品が増えているそうだ。

自分の自宅の冷凍庫には常に冷凍うどんがストックされている。

出汁も重要な要素だ。

讃岐うどんのだしは、いりこ(煮干し)ベースが主流。

通販で購入できるので、麺とセットで取り寄せることをお勧めする。

そして、忘れてはいけないのがネギと生姜。

これが無いと讃岐うどんの美味さが半減する。

自宅で作る際の注意は深い鍋で茹でること。

沸騰したら足し水をして、しっかり茹でる。

ここめちゃくちゃ重要です。

茹で上がったら、釜揚げ系以外はザルに揚げて、水道水でしっかり洗うことでコシが違う。

この作業をしていると、一端のうどん職人かと勘違いするのは間違いない。

讃岐うどんを自宅で楽しむ最大のメリットは、自分好みにカスタマイズできること。

麺の硬さ、だしの濃さ、トッピングの組み合わせ。

自由に試行錯誤しながら、自分だけの「最高の一杯」を見つける楽しみがある。

最近ではCMでいろんなトッピングうどんを目にするが邪道だと思うのは自分だけだろうか。

シンプルなうどんこそが王道だと思っている。

だが、香川県には絶品のカレーうどんが数件あることは内緒。

讃岐うどんは文化価値がある。

弘法大師(空海)が中国から持ち帰ったうどんだが全国に知れ渡るようになったのは麺通団の功績が大きと思う。

田尾さんは一度だけしかお会いした事はないが百々さんと話している時のうどん談義は面白い。

本当にうどんは奥が深いのだ。

後輩が某運送屋さんで麺通団の「半生麺タイプ」を扱っていた。

この半生麺うどんは世に出ない代物で、先輩の特権で強引に横流しをして食べたのだが、まさしく絶品。

これ以上の美味しさは味わったことがなかった。

当局のお達しかどうか分からないが、現在は作っておらず、幻のうどんと言っても過言ではない。

香川県人には、必ず一人一人の行きつけのうどん屋がある。

幼い頃から普通に食べてた「ぴっぴっ」。※うどんの子供言葉

お店によって微妙に違う、うどんと出汁の味。

昔ながらの味を守る、うどん職人の情熱はリスペクトだ。

前節、勝点1を積み上げたので、たぶんカマタマーレ讃岐はJリーグに残留できるだろう。

是非とも、アウェイで香川県に来て頂いて、本場の讃岐うどんを食べにきて欲しい。

観光地は少ないが、うどん屋はたくさんある。

コンビニより多い。

アウェイの旅はうどんを何杯でも食べて絶対に飽きない。

と思う。

多分飽きない。

飽きたら骨付鳥を食べればいい。

対戦相手のサポーターが、たくさん来てくれたらスタジアムだってネーミングライツの名前が付くはずだ。

観客動員数だってブービーを抜け出せる。

カマタマーレ讃岐にはうどんの力で、もう一度J2に返り咲いてもらいたい。

そして、スタジアムの入り口にうどんを食べてる北野誠の銅像が建つように声を上げてください笑

年末、女子中学生チームを連れて香川県に凱旋します。

またまた、マイクロバスをレンタルして一泊二日の遠征です。

当然、昼飯はうどん一択です。

運転頑張れの「お気持ち」よろしくお願いします。

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