サッカー観戦で一番面白いのは、その試合で何が変わるのかを見る事だ。
システムの噛み合わせによって攻撃時と守備時での変化。
時間経過によるライン間の距離であったり、スペースがどう変化していくのかを見るのは楽しい。
試合中に打開を試みようと変化を仕掛け、その仕掛けに対して対処して行く変化。
そして順位が変わり優越感に浸ったり、挫折感を味わう事も変化だ。
だが世間一般で変わる事、変化する事は大きな勇気が必要になってくる。
スタジアムを後にした自分と大澤朋也は大宮駅近くの居酒屋で遅い食事をとった。
先程の試合の結果でオファーがあるかもしれないが、あくまでも『しれない』なのだ。
試合中は成るようにしかならないと思っていたがFC岐阜は負けた。
連絡があるとしたら、いつなのだろうか。
監督候補が何人かいて、自分はそのうちの一人なのか。
それにFC岐阜にはS級ライセンスを持つ、米田徹コーチがいるはずだ。
これから監督選びが始まるのかも知れない。
そんな思いが頭に渦巻いているのを察してか大澤朋也はFC岐阜の話を振って来ない。
明日は『平畠会議』に出演なのでサクッと飲んで、東陽町のホテルに帰らなければならないがグダグダと昔話は止まらない。
普段はバッグに入れてあるiPhoneだが今日はテーブルに置き、着信を見逃さないようにしている。
楽しく話はしているがお互い着信が来るのを待っていたのだ。
そのiPhoneのバイブレーションが震え、ディスプレイには『高本詞史』の名前が浮かび上がる。
大澤朋也は後輩のくせに無言でアゴを上げ『出ろ』と催促する。
「ほい、お疲れ。」